癌との共存を目指しています。
ほどほどに楽しい日々を送っている。今の病院は働きやすい。僕は恵まれていると思う。

精神科医の仕事は、来院された患者さんに診断をつけ(アセスメントを与え)、それに則り治療を行っていくことである。現在、治療の主体は薬物療法である。診断が明確な場合は(統合失調症とか、うつ病とか)、その患者さんに合った薬物を選択し、量を考え、処方する。

この作業は、精神科だけではなく、他の科でも行われていると思う。「便に血がついている。」と訴える僕に対し、大腸ファイバーを行い、生検することによって、直腸癌と診断し(胸部~骨盤部CTを撮ることで転移の有無を確認し)、それに則り、僕も治療(手術、抗癌剤治療)を受けた。
大腸癌で転移を伴うケースは、抗癌剤治療は必須であると思う。僕に合った薬物(の組み合わせ)が選択され、量が割り出され、処方がなされている。

精神科では、薬物の選択が医者の間で議論が分かれていると思う。大腸癌で転移を伴う場合、FOLFOX(+アバスチン)が第一選択になる、というのと、状況がだいぶ違う。
我々精神科医も、薬物を選択した後は、量を設定するのだが、この辺りは更にアバウトである。今日も、ある患者さんを紹介して頂いたのだが、診断(アセスメント)と使う薬剤は一致していたのだが、初めに使う量が、僕と紹介医の間で2倍以上の開きがあった。病院に勤める医者は、「いざとなれば、入院させればいい。」と考えているので、初回投与量が少なくなる傾向があるのかも知れない。(紹介医は、医院の先生であった。)

精神科の現状が全て正しいとは思えないが、改めて、薬の量について考えた。

精神科は、新しく出た薬(統合失調症における非定型抗精神病薬、うつ病におけるSSRI、SNRI)が、「昔からある薬に比べると、副作用が少なくていいですよ。」というコンセプトで売り出されているため、「少ない目の量でも、効果はありますよ。」といった報告が見られていた。
抗癌剤は、今のところ、生存期間の延長が主眼となっているようだ。製薬会社にとって、「標準投与量で投与を行う群 vs 標準投与量の50%の量で投与を行う群」といった比較試験を行うメリットは無いだろうから、今後も、標準投与量での投与が良いか、少ない目の量での投与が良いのかは、エビデンスという観点からは藪の中だろう。(50%の量で投与を行う群が長生きしたとしたら、薬の売り上げは半減するだろう。)

僕が診療を行う上で参考にしている論文の一つに、「うつ病の患者さんに三環形抗うつ薬を、標準量で投与を行う群 vs 標準量の1/2~2/3の量で投与を行う群、で経過を追ったもの」がある。結論は「標準量の1/2~2/3の量でも、効果は変わらない、副作用は減った。」というものである。この論文は2002年に出ている。(http://www.bmj.com/cgi/content/full/325/7371/991) 2002年と言えば、とっくの昔に三環形抗うつ薬の特許は切れている。

こういった背景を考えると、一患者としても、一医師としても、ある程度の見切り発車はやむを得ないかな、と思う。

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【2009/04/07 23:15】 | 思ったこと
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No title
あんず
1ヶ月くらい前だったか、NHKで「うつ病の常識が変わる」というような特集番組がありましたよね。確か杏林大の教授が、抗うつ剤の投与を止めたり減薬したりして、うつから解放された患者さんが出てました。
あの番組を見て、うつの標準治療というのはあり得ないのかもしれない、抗うつ薬の量も少なくて長く続けるほうがいい患者もいるのかもと思いました。
それにしても、私もNoppoさん同様、薬の話はすぐ抗がん剤と比べて考えてしまいますね。

今ある薬をいかに上手く使うか。
のっぽ187
あんずさん

>1ヶ月くらい前だったか、NHKで「うつ病の常識が変わる」というような特集番組がありましたよね。

ありましたね。どうも、医療系の番組は敬遠してしまいます。存在は知っていたのですが、見ていないです。

>うつの標準治療というのはあり得ないのかもしれない

少なくとも全患者さんを標準治療で押し切る、ということは不可能だと思います。

>抗うつ薬の量も少なくて長く続けるほうがいい患者もいるのかもと思いました。

三環形抗うつ薬は、後から出て来たエビデンスは、「従来、これくらい要ると思われていた量より少ない量で行く方が良さそうだ。」というものでした。一方、再発予防については、「従来、これくらい(4~6ヶ月)投与したらいいだろうと思われていた期間より長く(1年4ヶ月~1年6ヶ月)投与した方がいいだろう。」というエビデンスが出て来ています。

>それにしても、私もNoppoさん同様、薬の話はすぐ抗がん剤と比べて考えてしまいますね。

そうですね。
精神科での治療では、「今ある薬をいかに上手く使うか。」がポイントだと思うのですが、考えれば考えるほど、精神科における薬物療法と抗癌剤治療は「似ているな。」と思います。
そう考えると、「今ある抗癌剤をうまく使ってもらって、快適な日々を長く過ごしたい。」と強く思いますね。

さじ加減
カノン
働いていて、「すごく楽しい」というのは、却って、無理をしているような気がしてしまいますが、「ほどほどに楽しい日々」を「恵まれている」と感謝していらっしゃることが、時間を大事に刻んでおられることを表していて、いつもながらすごいなあ、と思います。

精神科の薬物療法は、先生によって、マチマチなのですね。
ずっと前に出てきました「社会不安障害」(日本評論社,2002年)の中で、アメリカのシーハン教授は、次のように述べています。

薬物療法においては、「投与量を増やすことに『恐怖』をもつな」が忘れてはならない原則である。最初は少ない投与量からはじめ、徐々に量を増やし、患者が耐えうる最大量までもっていく。SSRIでは、患者が吐き気や頭痛を感じるまで、投与量を上げていく。副作用がまったく生じないということは、効果が不十分であることを意味する。 

いくら、4~10日以内に、害作用に対する完全な耐性が身につく、といわれても、その間、ずっと頭が痛い状態で、仕事を続けるのは、かなりきつそうです。私は、たぶん挫折します。


のっぽ先生は、ご自身の経験から、患者さんの訴える害作用に対しては、より敏感になられましたか。

さて、また勝手に近況報告などさせていただきますと(笑)、追突事故の後、すぐ行った脳神経外科の先生は、そのことに、至極ご満悦のご様子でした。
「ウチの科によく来たねっ!首より脳のほうが大事だからねっ!」というメッセージが、言葉の端々に伺えて、どのドクターも自分の科に誇りを持っているんだなあ、と感じました。

しか~し、もちろん首も大事です。4,5日後に、首と肩が板のようにガチガチに凝って、今度は整形外科に行きました。X線写真を撮って、6月にはMRIを撮ります。

返事その1
のっぽ187
カノンさん

>時間を大事に刻んでおられることを表していて、いつもながらすごいなあ、と思います。

有難うございます。

>ずっと前に出てきました「社会不安障害」(日本評論社,2002年)の中で、アメリカのシーハン教授は、次のように述べています。

社会不安障害(社会恐怖症)は、SSRIをたくさん使うのが良い、とこの本を初め、幾つかの本で指摘されています。以前は、「そうなのか。」と思い、SSRIを高用量で使っていました。(個人的には、吐き気や頭痛がするまで投与量を増やす、というのには、以前から反対でしたので、そこまで量を増やす、ということは、したことがないです。)
しかし、このたびの抗癌剤治療で自分が辛い目に遭ってからは、薬をたくさん使うこと自体に対し、「それでいいのか。」と考えるようになりました。(続く)

返事その2
のっぽ187
カノンさん

>のっぽ先生は、ご自身の経験から、患者さんの訴える害作用に対しては、より敏感になられましたか。

もともと、強い害作用には、気を遣って診療をしていました。
しかし、程度の軽い害作用、例えば、「この薬を飲んでいると、少し体がだるい。」とかは、効いている場合、迷ってしまいますね。本来、その対価(体がだるい)を支払う価値があるかどうかは患者さん自身が判断するべきなのでしょう。患者さんの具合が悪くなって家族が困る場合は、その判断を家族に委ねたらいいのかどうか、う~ん、難しい問題ですね。

返事その3
のっぽ187
カノンさん

>「ウチの科によく来たねっ!首より脳のほうが大事だからねっ!」というメッセージが、言葉の端々に伺えて、どのドクターも自分の科に誇りを持っているんだなあ、と感じました。

脳神経外科の先生は、その傾向が強いですね。

>しか~し、もちろん首も大事です。4,5日後に、首と肩が板のようにガチガチに凝って、今度は整形外科に行きました。X線写真を撮って、6月にはMRIを撮ります。

僕が思い付く限りで最高水準の医療を受けられていると思います。追突された場合、一番、高度な検査は、僕が知る限りでは、頚椎のMRIですね。
お会いして診察していないので、断言はできないのですが、大きな問題はなさそうですね。コメントの内容、検査のスケジュールを見て、そう思いました。

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この記事へのコメント
No title
1ヶ月くらい前だったか、NHKで「うつ病の常識が変わる」というような特集番組がありましたよね。確か杏林大の教授が、抗うつ剤の投与を止めたり減薬したりして、うつから解放された患者さんが出てました。
あの番組を見て、うつの標準治療というのはあり得ないのかもしれない、抗うつ薬の量も少なくて長く続けるほうがいい患者もいるのかもと思いました。
それにしても、私もNoppoさん同様、薬の話はすぐ抗がん剤と比べて考えてしまいますね。
2009/04/08(Wed) 12:04 | URL  | あんず #bWZdFEcQ[ 編集]
今ある薬をいかに上手く使うか。
あんずさん

>1ヶ月くらい前だったか、NHKで「うつ病の常識が変わる」というような特集番組がありましたよね。

ありましたね。どうも、医療系の番組は敬遠してしまいます。存在は知っていたのですが、見ていないです。

>うつの標準治療というのはあり得ないのかもしれない

少なくとも全患者さんを標準治療で押し切る、ということは不可能だと思います。

>抗うつ薬の量も少なくて長く続けるほうがいい患者もいるのかもと思いました。

三環形抗うつ薬は、後から出て来たエビデンスは、「従来、これくらい要ると思われていた量より少ない量で行く方が良さそうだ。」というものでした。一方、再発予防については、「従来、これくらい(4~6ヶ月)投与したらいいだろうと思われていた期間より長く(1年4ヶ月~1年6ヶ月)投与した方がいいだろう。」というエビデンスが出て来ています。

>それにしても、私もNoppoさん同様、薬の話はすぐ抗がん剤と比べて考えてしまいますね。

そうですね。
精神科での治療では、「今ある薬をいかに上手く使うか。」がポイントだと思うのですが、考えれば考えるほど、精神科における薬物療法と抗癌剤治療は「似ているな。」と思います。
そう考えると、「今ある抗癌剤をうまく使ってもらって、快適な日々を長く過ごしたい。」と強く思いますね。
2009/04/08(Wed) 20:31 | URL  | のっぽ187 #-[ 編集]
さじ加減
働いていて、「すごく楽しい」というのは、却って、無理をしているような気がしてしまいますが、「ほどほどに楽しい日々」を「恵まれている」と感謝していらっしゃることが、時間を大事に刻んでおられることを表していて、いつもながらすごいなあ、と思います。

精神科の薬物療法は、先生によって、マチマチなのですね。
ずっと前に出てきました「社会不安障害」(日本評論社,2002年)の中で、アメリカのシーハン教授は、次のように述べています。

薬物療法においては、「投与量を増やすことに『恐怖』をもつな」が忘れてはならない原則である。最初は少ない投与量からはじめ、徐々に量を増やし、患者が耐えうる最大量までもっていく。SSRIでは、患者が吐き気や頭痛を感じるまで、投与量を上げていく。副作用がまったく生じないということは、効果が不十分であることを意味する。 

いくら、4~10日以内に、害作用に対する完全な耐性が身につく、といわれても、その間、ずっと頭が痛い状態で、仕事を続けるのは、かなりきつそうです。私は、たぶん挫折します。


のっぽ先生は、ご自身の経験から、患者さんの訴える害作用に対しては、より敏感になられましたか。

さて、また勝手に近況報告などさせていただきますと(笑)、追突事故の後、すぐ行った脳神経外科の先生は、そのことに、至極ご満悦のご様子でした。
「ウチの科によく来たねっ!首より脳のほうが大事だからねっ!」というメッセージが、言葉の端々に伺えて、どのドクターも自分の科に誇りを持っているんだなあ、と感じました。

しか~し、もちろん首も大事です。4,5日後に、首と肩が板のようにガチガチに凝って、今度は整形外科に行きました。X線写真を撮って、6月にはMRIを撮ります。
2009/04/10(Fri) 00:30 | URL  | カノン #-[ 編集]
返事その1
カノンさん

>時間を大事に刻んでおられることを表していて、いつもながらすごいなあ、と思います。

有難うございます。

>ずっと前に出てきました「社会不安障害」(日本評論社,2002年)の中で、アメリカのシーハン教授は、次のように述べています。

社会不安障害(社会恐怖症)は、SSRIをたくさん使うのが良い、とこの本を初め、幾つかの本で指摘されています。以前は、「そうなのか。」と思い、SSRIを高用量で使っていました。(個人的には、吐き気や頭痛がするまで投与量を増やす、というのには、以前から反対でしたので、そこまで量を増やす、ということは、したことがないです。)
しかし、このたびの抗癌剤治療で自分が辛い目に遭ってからは、薬をたくさん使うこと自体に対し、「それでいいのか。」と考えるようになりました。(続く)
2009/04/12(Sun) 00:47 | URL  | のっぽ187 #-[ 編集]
返事その2
カノンさん

>のっぽ先生は、ご自身の経験から、患者さんの訴える害作用に対しては、より敏感になられましたか。

もともと、強い害作用には、気を遣って診療をしていました。
しかし、程度の軽い害作用、例えば、「この薬を飲んでいると、少し体がだるい。」とかは、効いている場合、迷ってしまいますね。本来、その対価(体がだるい)を支払う価値があるかどうかは患者さん自身が判断するべきなのでしょう。患者さんの具合が悪くなって家族が困る場合は、その判断を家族に委ねたらいいのかどうか、う~ん、難しい問題ですね。
2009/04/12(Sun) 00:56 | URL  | のっぽ187 #-[ 編集]
返事その3
カノンさん

>「ウチの科によく来たねっ!首より脳のほうが大事だからねっ!」というメッセージが、言葉の端々に伺えて、どのドクターも自分の科に誇りを持っているんだなあ、と感じました。

脳神経外科の先生は、その傾向が強いですね。

>しか~し、もちろん首も大事です。4,5日後に、首と肩が板のようにガチガチに凝って、今度は整形外科に行きました。X線写真を撮って、6月にはMRIを撮ります。

僕が思い付く限りで最高水準の医療を受けられていると思います。追突された場合、一番、高度な検査は、僕が知る限りでは、頚椎のMRIですね。
お会いして診察していないので、断言はできないのですが、大きな問題はなさそうですね。コメントの内容、検査のスケジュールを見て、そう思いました。
2009/04/12(Sun) 01:03 | URL  | のっぽ187 #-[ 編集]
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